ホワイトチョコレートと川の匂い

 「なにしようと思ったんだっけなあ」「とりあえず日記書こう」書きはじめた。しようと思っていたことを頻繁に忘れるのでアタマが弱っているのかもしれない。日記は書こうと思った。今日は散髪に行こう、そうして服を買おう、と思って午後になってからゆらりと床屋に向かったのだが、人が多くて、来週にしようと決めた。そのあとデパートというか、スーパーに近いなんていうかの施設に行った。外でチキンラーメンの試食がおこなわれていた。道を歩いていて差し出されたものを拒む習性を身に付けてしまった私はそこを素通りした。チキンラーメン、少し食べてもいいかと思ったけど。きっちり、無関心の社会に取り込まれてしまっているのだろうか。むしろ、無関心の社会にあって関心を惹こうとするものがあんなもの(ティッシュ配りとか)ばかりだから気分が害されるのだ。
 服を見たがスーパー的な品揃えなので、というのかどうか知らないが惹かれなかった。いやそもそも着るものってのが商品的に自分にとって魅力のないので、買いたい気が起きないというのもある。そんななのですぐ店を出た。そのあとダイドーミルクセーキを買って、飲みながら歩いた。実際は缶をさますのに時間がかかって、ようやく口をつけてから飲み終わるまではすぐだった。いつのまにか閉店しようとしているコミュニティストアを見た。コンビニは寡頭化が進んでいる。前も言ったけれど、資本主義の行く先は(ある面では)共産主義的な世界なんじゃないだろうか。俺は服は配給してほしいけどね。自分の中の重要さに比してあれは高価すぎる。必要ではあるし、また、いざ配給されるとなるとそのデザインに間違いなく文句言うんだけども。自分で生地買って作る、ってのが最も間違いのない道なのか。
 川に出た。 Boards of Canada の Geogaddi というアルバムを iPod nano で流していた。石と草と、そして水ばかりの風景にこの音楽はなかなか合う。この河原を伝って家に帰ろうと決めた。ハトが集まって陽に当たっていた。すこし上から見ていたが逃げる様子はなかった。長い橋を渡って、途中で止まった。トラックが通るとわずかに揺れるのがわかる。それでも橋は、たぶん数十年のあいだ崩れないでいる。石でできた橋が。簡単に割れてしまいそうに見えるのに。上から川を見下ろして、呼吸しながらゆっくり 10 数えた。音楽は流したまま。
 橋を渡る。と、この先にポプラというコンビニがあることを思い出して、そしていつかそこに行こうと思っていたことを思い出して、そこに行くことにした。途中、リサイクルショップを見つけて、すこし入った。服はここで買うのがいいかもしれない。そこそこ種類があって、そこそこ安い。人の使ったもの、というのは、あまり気にしなくなった。新品で買うのには、むしろそのお金がどこに行くか、ということに重きを置いている。店を出て、その先に、花屋というのか、鑑賞用の植物がいろいろ売ってる店を通った。そこに盛り上がった場所があって、駐車場なのだが、高さが急に下がっていて、危ない。つまりそこだけ台のようになっている。台の上から下を覗いて、そこから離れる瞬間にはじめて恐怖を覚えた。恐怖は、危険なものごとから逃れようとするときに生じるものだと理解した。
 ポプラは、あんがいに充実していて清潔な場所だった。文庫本で『5次元入門』なるものを発見した。一見して「あやしげな」本だ。中身をちらっと見てみたが、なんか散漫でよくわからない印象を受けた。いま通用してる科学よりは体系性ないかんじ。同じ棚には、似たような神秘的なノリの本がいくつか並んでいた。(いま、 amazon.co.jp で「5次元」で検索したら、「5次元文庫」なるものの一部なんだそうだ)。とはいえ、独立した理論が詳細に書かれてる、というのは面白そうではある(一種の SF とか思想書として読めるだろう)。ちょっと読んでみたくなったが、とりあえず先送り。せっかくだからなにか買おうということで、ホワイトチョコレートを買って出た。チョコレートを食べながら川に出て、川沿いに歩いて帰った。あまり清潔でない川の匂いとチョコレートの味が混ざった感覚が印象的だった。

Geogaddi (WARPCD101)

Geogaddi (WARPCD101)