人生の意味の謎 その1

帰省してましたこんにちは。ツイッターの様子だとバイト行ったまま帰ってこないみたいになってますが帰宅宣言せずにそのまま帰省してたという話でした。日記のタイトルはその1となっておりますがその2その3そして解決篇までもが書かれるかはたいへん疑わしいです。例によって。
「君はなぜ生きているのか」という問いに対して「いや、それは死んでいないからにすぎない」とか答えを返す人はきっと少なからずいて、これは典型的な答えといってもいいくらいの“自明の理”であると思う。だってそりゃそうだ。生と死は互いに排除しあう関係にあってしかも中間はない。つまり、ある人間の状態にかんして、かれが生きていなければ即ち死んでいるのであり、死んでいなければただちに生きていることになる。非生即死、非死即生。そうした原理が正しいとすれば、「死んでないから生きてるのだ」という言明は、かなり初歩的なトートロジーでしかない。それは、(例示がアレだが)かりに世界には S と M しか存在しないとして、 M の人間に「なぜ君は M なのか」と尋ねて「それは私が S でないからだ」と返すのと形式上同じである。あるいは、血液型 B の人間に「なんで B 型なの」と問うて「いや、それはおれが A 型でも O 型でも AB 型でもないから……」と答えるのと同じことである。なお、筆者は B 型ではない。ともかく、このタイプの返答が与えている「理由」は、かなりお粗末なものだ、ということになる。
しかしそんなスタティックな話ではないよな。これは形而上学的な問いでもないし、形而上学的な答え方をすべきでもない。人生の意味への問いは、むしろ意志とか欲望とか、自由とか、そうした倫理学的あるいは人間学的な概念も込みで受け取らなければならない。要するに。
「死んでいないから生きているのだ」と語る者は*1、死ぬ、ということを積極的な選択として評価している。つまり自殺だ。いま首をつったり身を投げたりして自ら死ぬことはできるけど、でも自分は(なんらかの理由から)それを選択していない。生きているということは、その副産物として生じている状況だ、と。それも積極的な選択でなく、死を“選択しない”という否定的態度のみによってあなたの生は確保されている。そこで現れる「生」は、ずいぶんと消極的な容態といえる。べつに生きようとして生きてるわけではない。ただ死ぬのは嫌だから結果的に生きちゃってるだけだ。と。
さて。ここで問題の所在を見失ってしまったのだが。なにが謎だったんだろうか。
すこし気になる点があるので、そこから話を続けてみよう。「死ぬのが嫌だから結果的に生きてるだけ」という。しかし、この言明は死でも生でもないニュートラルな立場から発せられてはいない。はっきりと生の立場から、これは言われている。死ぬのが嫌なのは生きてるときだけである。もうすこし言えば、そもそも嫌とかいう判断が可能なのは、「嫌だ」という状態がありうるのは、生きてる人間にとってだけだ。その意味に限り、その人は生を消極的に捉えながらも他方ではどうしようもなく生の立場に与している。
いや、べつにそれを糾弾するとかいうつもりではないんだけど。
ところで、多くの人にとって(そしてそれは、多くの人が生を消極的な意味で生きていることを意味してもいる気がする(いよいよ自己啓発書っぽいので俺はどうしたらいいんだろうか))死は積極的な選択であっても、生はそうでない。死は生きてる私が決定して実行できる選択肢だけど、生はただ与えられた状況でしかない。私は自ら選んで生まれてきたのでもないし、自分で決めて生き続けているわけでもない。知らないうちに生まれてて、ただなんとなく生き続けてるだけだ。いや、「生き続ける」という表現がそもそも積極的な響きがする。事情に対してより正確になれば、私は「生きている」のではなく、ただ「死んでない」というにすぎない。昨日は死ななかった。今日もまだ死んでない。明日もたぶん死なないんだろう。その積み重ねを、ひとは「生きている」と誤って観測している。「君はどうして生きているんだ」という問いに対しては、それゆえ次のように答えられる。「生きてなどいない。生きてるように見えるだけだ」と。自己啓発臭著しい(つまり、「生きてるように見える」を脱して、よりポジティヴな意味で「生きる」ということを僕は支持するわけだ)(ただしその立場をここで展開はしないと思う)。でも僕は先へ進むよ。


……と、ここまでで手記は終わっている。かれがこれから何を書こうとしていたのか、さまざまに推測することはできる。が、へたに続きを予想することはやめよう。とにかく、かれが書いたのはここまでである。そこにわれわれが付け加えるべきことなどなにもないっていうかまあ、続きはまた今度ということで。行き詰まったので。

*1:この言い回し、ゆるく元ネタがあるんだけど、どこだったかは忘れた