自己欺瞞と自己犠牲 (双書エニグマ)
柏端達也『自己欺瞞と自己犠牲』、勁草書房、2007(http://www.keisoshobo.co.jp/book/b27020.html)。読了*1自己欺瞞とか自己犠牲って正確にいってどういう種類の行為なんだろう?という本。最初の2章が自己欺瞞、残りの6章が自己犠牲の分析にあてられている。「けっきょくすべての利他的行為は、よくよく反省してみれば自分がそれによって気持ちよくなったりするからするわけで、つきつめれば自分のためにしてるにすぎない」というシニシズムはかなり広く適用できる困った存在なのだが、本書はこの原理を直接には批判しない形で、それでも自己犠牲的な行為はある(どころかありふれている)と説く。話の展開はかなり堅実でそれゆえ地味だが、哲学的な面だけでなく文体にかんしても示唆されるところが多かった。自己犠牲的行為を安易に道徳に結び付けてはいけない、という本のかなり最後のほうでの指摘には良心を感じる。形式的な分析(自己欺瞞の部では、論理学を使った――論理式を用いた、ではない――分析がなされている)は、たんに議論を明瞭にするための道具ではなく、それ自身が新しい地平を切り開いてくれるものだと知った。哲学はほんとに科学――とくに数学に似てる――になりつつあるな、という気がする。
(20110904追記)あと、「それが合理的かどうか」という観点はきわめて有用であることを学んだ。

*1:いまさらだが読了ってのがデフォルトで変換できるのは気に食わないね。一般的な概念であってほしくない。