一億人の俳句入門

一億人の俳句入門
長谷川櫂講談社、2005年。「決定版」が講談社現代新書から2009年に出ている。
著者はとても頭の切れる人だと思う(東大法学部……)。文章はたぶんに断定調だが、その発言が独断に感じられることはない。著者がものごとをクリアに、かつ正確に把握している証拠だと思う。とはいえ細かい論証が展開されてないところは多いので、哲学脳にはちと物足りない。いや題材が題材だからまあ、無理な注文だとは思うけど(それに細部が欠けてるというわけではない)。ある考え方が正しいかは、実作をたくさん見て判断するしかないかな。
あとこの人は体言止めが多い。体言止めといってもレトリカルな意味でのそれではなく、ようは判定詞(「である」「だ」のたぐい)*1の省略である。このテの文体、どこか独断的というか押しつけっぽく聞こえて好まなかったんですが、今回はほとんど違和感がなかった。これも「必要なことを、必要なだけ」述べていく著者の明晰さのあらわれだろう。じっさい、無駄のない、かなり切り詰められた文章になっていて、読むのに時間がかかったのはそのせいもある。
かんじんの俳句入門にかんして言えば、これは満足いくものと言えるのではないでしょうか。まだこれしか読んだことないので憶測ですが。俳句はどういう形式・構造をもっていて、他人のを読んだり自分で詠んだりするときにはどういうことを気をつければよくて、みたいなことは一通り飲み込めた気がする。

*1:この判定詞って用語、 Wikipedia に載ってないところをみると若干マイナーなもののようですね。私が参照したのは次の本:益岡隆志・田窪行則『基礎日本語文法 改訂版』、くろしお出版、1992年。